映画「ゼロの焦点」の感想

映画「ゼロの焦点」は松本清張の同名の小説を映画化したものである。松本清張は戦後から社会派の推理小説家として人気を得た作家で、この映画も基本的にはミステリー映画であるが、同時に戦後の複雑な社会背景も描きこまれており、社会ドラマとしても見応えがあり、重厚な映画に仕上がっている。是非とも見る価値のある映画であると思った。

松本清張の生誕100年を記念する映画ということであるが、生誕100年といえば太宰治もそうで、少し不思議な気もするが、二人は同年代の人間ということになる。しかし、活躍した時期は完全に分かており、太宰治は早熟で松本清張が処女作を発表する前にはすでに作品を残し自殺してしまっており、一昔前の作家という感覚。これに対し松本清張は生活体験を積んだ後の人生後半から文筆活動を始めたため、我々の世代に活躍した作家という感覚である。

この小説も名前はよく知っており、映画やテレビで度々映像化されているとのこと。映画を見ればストリーを思い出すかと思ったが、まったく心配無用で、初めて見る映画のように新鮮な気持ちで見られた。以外に人間の記憶などいい加減なもので、昔のテレビドラマなど殆ど覚えていないものである。

物語は新婚早々に金沢に出張した夫が帰らなくなり、主人公(末涼子)が金沢に行き、関係者に会って事実を確かめていくことからドラマは展開するが、新たな殺人事件が起こったり、重要な事実が分かったりして、ミステリー性を徐々に高めて行く。

テレビドラマでは刑事が活躍して、真相を一気に解明することが多いが、この映画ではあくまでも、主人公がゆっくり行動するテンポに合わせて真実が分かってくるので、謎も徐々に解明される感じである。この間、私は、失踪ミステリドラマの常道であるように、夫が名前を変えてどこかで現れるのでないか、死体が見つかるのでないかなどいろいろ予想しながら見ていた。

映画は数分単位の場面で構成されるが、一つ一つの場面が戦後の時代背景にした社会派ドラマのような内容も含まれており、映画に重量感を与えている。その内、幾つかの場面ではジグゾウパズルのピースのように新しい真実が明らかにされていき、最後のクライマックスに持って行く。物語が戦後の暗い時代の話であるため、古い映像を挿入したり、北陸の荒々しい海や雪の情景そ挿入して、戦後の薄暗い雰囲気を醸し出している。汽車の中の場面などは懐かしかった。

場面設定や映像アングルも見事である。比較的、大写しで撮られることが多く、映画の大画面の強みを活かしているように思える。出演者の演技も納得いくもので、特に、広告の表紙になっている末涼子、中谷美紀、木村多江の3人の女優はその性格を見事に演じていた。個人的には特に中谷美紀の演技は気に入った。後半、アップで映し出される表情には凄みがあり、映画に引き込まれた。

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